背景
- 軽度高血圧(収縮期血圧 140〜159 mmHg、または拡張期血圧 90〜99 mmHg)で、既存の心血管疾患がない人に対する降圧薬の単剤療法またはステップアップ療法の開始について、2012年に公表されたCochraneレビューの更新である。
- 従来のレビューでは、全死亡率、総心血管イベント、脳卒中、冠動脈疾患、有害事象による治療中止(WDAEs)の発生率に差がないことが示されており、軽度高血圧の一次予防に対する薬物療法の有用性は、相反する研究が存在するため不確実であった。
目的
未治療の軽度高血圧で、既存の心血管疾患がない成人に対し、降圧薬の開始をプラセボまたは無治療と比較し、全死亡率、総心血管イベント、脳卒中、冠動脈疾患、および有害事象による治療中止のリスクを再評価すること。
方法
- 1年以上の期間を持つ、降圧薬の単剤療法またはステップアップ療法の開始をプラセボまたは無治療と比較した無作為化比較対照試験(RCT)を対象とした。
- Cochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embaseなど、複数のデータベースを検索した(検索期間:開始時から2024年6月まで)。
- 5件のRCT(合計9,124人、降圧薬群4,593人、プラセボ/無治療群4,531人)が組み入れられた。
- CochraneのRoB 1ツールを用いてバイアスのリスクが評価され、GRADEアプローチを用いてエビデンスの確実性が評価された。
結果
- 全死亡率、総心血管イベント、冠動脈疾患: 降圧薬の使用は、これらのアウトカムをほとんど、または全く減少させない可能性がある(いずれもエビデンスの確実性は低い)。
- 全死亡率: リスク比 (RR) 0.85 (95% CI 0.64 to 1.14)
- 総心血管イベント: RR 0.93 (95% CI 0.69 to 1.24)
- 冠動脈疾患: RR 1.12 (95% CI 0.80 to 1.57)
脳卒中
脳卒中のリスクは減少する可能性がある(RR 0.41, 95% CI 0.20 to 0.84; エビデンスの確実性は低い)。
有害事象による治療中止
降圧薬の使用により、治療中止が増加する可能性がある(RR 4.80, 95% CI 4.14 to 5.57; エビデンスの確実性は低い)。
- 全てのアウトカムについて、エビデンスの確実性は、不正確性、間接性、およびバイアスのリスクにより「低い」と評価された。
結論
- 未治療の軽度高血圧で既存の心血管疾患がない人に対し、降圧薬を開始しても、全死亡率、総心血管イベント、または冠動脈疾患は減少させない可能性がある。
- 脳卒中リスクは減少する可能性があるものの、有害事象による治療中止のリスクも増加する可能性がある。
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